
縦社会から横社会へ
私たちは日々、他人と接する中で意識せずに縦の関係を築いていることがあります。「相手より優れている」「相手より劣っている」といった意識は、自分と他人を比較することで生まれるものです。しかし、これを意識的に横の関係、つまり他人と対等に接する考え方にシフトすることができれば、私たちの人間関係はより健全で充実したものになるでしょう。本記事では、アドラー心理学の視点から「横の関係」について解説し、実際の生活にどう活かせるのかを掘り下げます。
第1章 横の関係の基本概念
縦の関係と横の関係の違い
人間関係における「縦の関係」とは、優劣や支配・服従を基準にした関係を指します。一方、「横の関係」は、相手を自分と同等の存在として尊重する考え方です。これにより、人間関係は対等で調和の取れたものとなります。
- 縦の関係の例:
- 上司と部下の関係で、命令する側と従う側が明確に分かれる。
- 親が子どもに「これをやりなさい」と一方的に指示を出す。
- 横の関係の例:
- 同僚同士が互いにアイデアを出し合い、議論を重ねて解決策を見つける。
- 親が子どもと同じ目線で話し合い、意見を尊重する。
比較が生む縦の関係
人間は本能的に他人と自分を比較しがちです。これが「縦の関係」を生む原因の一つとなります。たとえば、職場で他人の成功を見て「自分は劣っている」と感じたり、逆に「自分のほうが優れている」と安心感を覚えたりすることがあります。
比較は競争を促す一方で、嫉妬や劣等感、さらには傲慢さを生み出すことがあります。これを克服するためには、他人と比べるのではなく、個々の価値を尊重する「横の関係」の意識が必要です。
第2章 感謝の力と横の関係
感謝がもたらす勇気
アドラー心理学では、「感謝されることで人は勇気を補充できる」とされています。勇気は、他人と対等な関係を築く上で重要な要素です。他人から感謝の言葉を受け取ると、自分が誰かの役に立てたことを実感し、自己肯定感が高まります。
- 感謝の具体例:
- 「ありがとう」と言われたとき、私たちは誰かの生活に良い影響を与えたと感じられます。
- 例えば、困っている人を助けた後、その人が「助かりました」と笑顔で感謝を伝える場面。
褒めることとの違い
感謝と褒めることの違いを理解することが重要です。褒める行為には、往々にして上下関係が含まれます。「偉いね」「すごいね」と言うとき、そこには評価する側と評価される側の立場の違いが生じます。一方、感謝の言葉は評価ではなく、純粋に相手の行動に対する感謝の念を伝えるものであり、横の関係を生み出します。
第3章 雨と鞭の落とし穴
操作ではなく援助を
雨(褒美)と鞭(罰)は、他人を操作するための手段とされています。例えば、良い行動をしたときに「偉いね」と褒め、悪い行動をしたときに叱るといったしつけが挙げられます。しかし、このようなアプローチは他人を都合の良いように動かそうとするものであり、相手の自律性を損なう危険性があります。
介入と援助の違い
相手の課題に踏み込んで指示や命令を出すことを「介入」と呼びます。一方で、相手が自ら解決策を見つける手助けをするのが「援助」です。援助は、相手が自分で考え、成長するための余地を残す行為であり、横の関係を築くための基本です。
第4章 自分の正しさを手放す
絶対的な正しさは存在しない
「正しいと思った瞬間に間違いが始まる」という言葉が示すように、私たちの考えや意見は主観的なものです。他人に「これが正しい」と押し付けることは、相手の自由を制限し、横の関係を損ないます。
一郎の例から学ぶ
イチロー選手の打撃フォームが初めは否定されたエピソードは有名です。もしも彼が周囲の指導に従って個性を捨てていたら、今のような成功を収めることはなかったかもしれません。この例は、自分の正しさを押し付けるのではなく、相手の可能性を信じて見守る重要性を教えてくれます。
第5章 課題の分離と横の関係
課題の分離の重要性
アドラー心理学の「課題の分離」は、誰の問題かを明確にする考え方です。他人の課題に踏み込まず、相手が自分の力で乗り越えるのを尊重することが横の関係を築く第一歩です。