依存症を生みやすい日本社会
私が危険だと思うのは、日本という国が依存症を生みやすい社会になっているということです。
昔から、依存症というのは、為政者がもっとも危険視するもののひとつでした。
たとえば、アヘン戦争というのは、イギリスが輸出するアヘンにより依存症の人が増えると国が傾いてしまうということで、清国の政府が思い悩み、相手が強国だとわかっていながら、戦争に踏み切ったものです。
法律を作る際も、麻薬やギャンブルのように依存性の高いものについては、それに人々が近寄らないように、売った側だけでなく、買った側、やった側も罪になるようにしています。
たとえば、覚せい剤の場合、手を出した人の20〜50%が依存症になってしまうとされています。そうすると、刑務所に入って、何年間かやめていても、きちんと治療を受けないとまた手を出してしまう、場合によっては、一生依存から抜けられないということが起こります。
依存症と意志の関係
意志が強ければ依存症は治せる、と思っている人が日本にはまだ多いようで、たとえば覚せい剤依存でつかまった人間が再犯をすると、「ダメな人」として断罪されますが、実際は「意志が壊される病気」なので、意志が強くても、きちんとした治療をしないとやめることはほぼできません。さらに言うと、きちんと治療をしても治らないことが多い病気なのです。
ギャンブル依存症と日本社会
ただ、日本も含めて、ギャンブルを完全に禁止する国はそんなにありません。制限を守ったらギャンブルを認めるという国が比較的多いようです。
その制限は、明らかに依存症を意識したものと言えます。ひとつは、その国の人口密集地や中心地から離れたところで原則的に認可するというものです。アメリカならラスベガス、中国ならマカオ、フランスならモナコ(これは別の国になりますが)という具合です。このくらい普段住んでいるところから離れていると、しょっちゅうは行けませんから、依存症にはなりにくいというわけです。
ところが、日本では、そこのところが緩いために依存症が蔓延しやすくなっています。
パチンコホールは、多くの人の家の近所(地方でも車を使えば10分以内がザラ)にあり、しかも毎日開店しており、朝から晩までやっています。これでは依存症になりやすいのは当然のことですし、またいったん依存症になってしまうとやめられなくなってしまうのももっともなことです。
これは、ほぼ世界の例外と言っていい状態です。
以前は、韓国や台湾にも多くのパチンコホールがあったのですが、依存症などが社会問題になり、韓国では、2006年秋にパチンコの換金行為が全面禁止となり、店舗は激減しました。台湾でも台北のような大都市ではやはり法によって禁止されています。日本は世界の例外国であると同時に、世界で一番ギャンブル依存症になりやすい国となっているのです。実際、人口あたりのギャンブル依存症の割合は、一般的な先進国の4〜5倍程度とされています。
スマホ依存症の深刻化
依存症の多い国である日本にさらに依存症を増やしたのが、スマホの普及とマーケティングです。
先ほど、パチンコ店は、家の近くにあるなどアクセスがいい上、毎日、朝から晩までやっているから依存症になりやすいという見解を書きました。もし、この仮説があたっているなら(おそらくは、あたっているでしょう)、もっと怖いものがスマホです。
パソコンでゲームをする場合、家に帰ってやらないといけないのに対して、スマホのゲームであれば、満員電車の中でもできます。もちろん、枕元において、寝る直前まで続けることもできます。
かつて、ネット依存やネットゲーム依存が問題になったときに、職場のパソコンを使って、仕事中までネットゲームがやめられない人たちが問題になりましたが、現在では、職場や学校の教室で、スマホをデスクの上に置いているなどという光景は当たり前に見られるようになっています。
LINE依存の影響
さらに事情を複雑にしているのは、スマホの場合、ゲームだけでなく、LINEなどの「つながり依存」のような状態が存在することです。
NTTドコモのモバイル社会研究所の「2022年一般向けモバイル動向調査」によると、スマホ・ケータイ所有者の10代の94%、20代の91・4%がLINEを利用していて、全体では8割以上が利用しているというのです。
LINEの返事をチェックするために、ゲームをやらない人でも当たり前に、四六時中、スマホを見たり、操作したりする(授業中や仕事中も)。そうしないと不安だとすると、すでに依存症になっていると言えるのですが、それを周囲も本人も依存症と自覚しないのが、LINE依存の怖いところと言えます。
引用
依存症大国ニッポン – 喫煙からネット依存まで、患者数は数千万人規模に及ぶ国民病に
https://nikkeimatome.com/?p=16767