
映画のあらすじ
主人公はエブリン。夫のウェイモンドとともにアメリカでコインランドリーを経営しています。
しかし、ウェイモンドは密かに離婚届を書いており、夫婦関係は危機に瀕しています。
一方、娘のジョイには同性の恋人・ベッキーがいますが、エブリンの父・ゴンゴンが春節と誕生日の記念に訪れるため、古い価値観を持つ父の前でその事実を隠していました。
一般的な生活を送るエブリンでしたが、物語の舞台となるのは「シータ4645」と呼ばれるマルチバースの世界線です。
そんな中、税務監査が入り、経費の不正申請を疑われるなど、エブリンの生活はさらに追い詰められていきます。
そこに現れたのが、「アルファバース」のウェイモンド。
ウェイモンドはカンフーの達人となり、別の世界線からやってきました。彼の目的は、「ジョブ・トゥパキ」と呼ばれる並行世界すべての脅威を止めること。
ジョブ・トゥパキの正体は、並行世界におけるジョイ。彼女がマルチバース全体の脅威となってしまっていたのです。
エブリンにとっては耐えがたい現実ですが、彼女はこの脅威に立ち向かうことになります。
対抗するために、エブリンは耳に装置をつけ、奇妙な行動を取ります。
劇中ではリップスティックを食べるなど、かなり突飛な行動をすることで「バースジャンプ」を発動し、並行世界の自分のスキルや記憶を共有できるようになります。
カンフーの技術や歌の才能など、様々なスキルを身につけ、超人的な力を得ていくのです。
あらゆるマルチバースに干渉し、無数の記憶とスキルを手に入れたジョブ・トゥパキは、劇中でも描かれていたように、触れるだけで物質を構成する原子に影響を与え、形を変えていく力を持っていました。それにより、パンが弾けたり、顔の位置が変わったりしていきます。
ジョブ・トゥパキは、ありとあらゆるものを混ぜ合わせた結果、「虚無」というブラックホールを生み出してしまいました。そして、その中へと飛び込むことで、この無意味な世界を終わらせようとしていたのです。そんな彼女に立ち向かったのは、最大の失敗者と呼ばれたエブリン。しかし、劇中では「最大の失敗者」と言われていたものの、実際にはそれこそが彼女の強みでした。失敗を重ねたからこそ、ジョブ・トゥパキを超える可能性を秘めていたんです。
エブリンは、娘を救うために何度もバスジャンプを繰り返しましたが、同時に膨大な世界線の情報を見たことで、彼女自身も虚無感に陥ってしまいます。そこへ、アルファ・ゴンゴン(エヴリンの厳格な父親)が介入し、止めようとするものの、虚無感に支配されたエブリンは、すべてをどうでもよく感じて破壊行動を繰り返してしまいます。国税庁を出た後、自宅の窓ガラスを割ったり、レイモンドを捨てたり、スターとなった世界線ではウェイモンドと復縁しようとしたり、ソーセージ指の世界ではパートナーだったディアドラ(税務調査官)と別れようとしたり……。どの世界線でも、彼女は秩序を崩していくのです。
しかし、そんなエブリンを諦めずに救おうとしたのが、彼女の夫・ウェイモンドでした。彼はどんな世界線でも彼女を許し、救おうとします。その愛や親切心が他の世界線にも波及し、エブリンは徐々に過ちを正そうとし始めます。例えば、アライグマを取り戻したり、パートナーと向き合ったり。膨大な絶望に飲み込まれる寸前、エブリンは「親切心」という極めてシンプルな答えに辿り着くのです。
最終的にエブリンは、ジョブズパキによって洗脳された人々を、暴力ではなく愛や親切心や優しさで救い、娘にも「受け入れること」「許すこと」の大切さを伝えます。どんな世界線でも、許し、親切にすることで、自分の人生に意味を見出せる。それが虚無感からの解放へと繋がるのです。そして、それを教えてくれたのは、特別な超人でもなく、特別なエブリンでもなく、ただ隣にいた普通の人間、ウェイモンドだったのです。
アルファバースとは
この映画に登場する「アルファバース」は、作中で設定されている並行宇宙(マルチバース)の中心的な次元のことです。アルファバースの住人たちは、他の宇宙の自分の能力をダウンロードできる「バースジャンプ」という技術を開発し、マルチバースを行き来しながら戦うことができます。物語の中で、主人公エヴリンもこの技術を使い、さまざまな宇宙の自分の能力を借りながら成長していきます。
アルファバースは、「最初にマルチバースの存在を発見した宇宙」とされており、そこからバースジャンプ技術が発展しました。しかし、同時に最大の脅威であるジョブ・トゥパキ(=主人公の娘ジョイの別バージョン)も生まれた世界であり、彼女はすべての可能性を理解し、無意味さを悟った結果、「エブリシング・バッグル」という虚無的な概念を作り出します。
この映画では、アルファバースの科学技術がストーリーの鍵になっています。
劇中に登場するアライグマは、ディズニー&ピクサーの映画『レミーのおいしいレストラン』のパロディ
劇中に登場するアライグマ(ラクーナ・コーニー / Raccacoonie)は、ディズニー&ピクサーの映画『レミーのおいしいレストラン(Ratatouille)』のパロディです。
モチーフになった要素
- レミー → ラクーン(アライグマ)
- 『レミーのおいしいレストラン』では、ネズミのレミーが料理人リングイニの帽子の中に隠れ、髪を引っ張って操りながら料理を作ります。
- 一方、『エブエブ』では、料理人チャドがアライグマのラクーナ・コーニーに帽子の中から操られています。
- 名前も「Ratatouille」→「Raccacoonie」
- 映画内では、主人公エヴリンが「ラタトゥイユっていう映画のこと知ってる?」と言いながら、「ネズミじゃなくてアライグマが料理人を操るやつ」と勘違いして話すシーンがあります。
- 実際に別の宇宙では、本当にアライグマが料理人を操る世界が存在しており、これが「Raccacoonie(ラクーナ・コーニー)」というキャラクターの由来になっています。
- コメディ要素の強化
- 『レミーのおいしいレストラン』では感動的なストーリーが展開されますが、『エブエブ』のパロディでは、アライグマが見つかってしまい、最終的に動物管理局に連れて行かれそうになります。
- しかし、エヴリンが助けるためにチャドを肩に乗せて走る(リングイニがレミーを助けるシーンのオマージュ)という、シュールで笑える展開になります。
『エブエブ』のアライグマのシーンは、『レミーのおいしいレストラン』のパロディであり、映画の中のカオスなマルチバース世界を象徴するユーモアの一つとして機能しています。
映画の魅力と見どころ
本作の最大の特徴は、マルチバースをテーマにした壮大なストーリー展開と、個性的な世界観です。
エブリンは「バースジャンプ」と呼ばれる技術を使い、異なる並行世界の自分と意識をリンクさせることで、特殊な能力を習得していきます。例えば、カンフーの達人、シェフ、ピザ屋の従業員、さらには生物が存在しない世界の「石」になるエブリンまで登場します。
マルチバースの設定は非常に複雑ですが、その背後にあるテーマは「家族の絆」や「アイデンティティの探求」といったシンプルなものです。
作品の至るところにオマージュも散りばめられており、『2001年宇宙の旅』、『恋する惑星』、『キル・ビル』など、多くの名作へのリスペクトが見られました。こうした細かい演出を見つけるのも、この映画の楽しみ方のひとつでしょう。
映画のメッセージ
本作のメインテーマの一つは「ニヒリズム(虚無主義)」です。
ジョブズパキは、すべての並行世界を経験したことで「世界には何の意味もない」と感じ、最終的に全てを無に帰そうとします。この象徴として登場するのが「ブラックホール・ベーグル」。これは、すべての物質と情報を詰め込んだ結果、究極の虚無を生み出す存在となっています。
しかし、エブリンはこれに対抗し、「愛と優しさ」をもってジョイを救おうとします。最終的に、彼女はジョブズパキを受け入れ、愛をもって彼女の心を救います。この結末は、情報過多の現代社会において「何を信じるべきか」というテーマを考えさせられるものになっています。
エヴィリンの3度の覚醒
Part 1: Everything すべてが
物語はエヴリン・ワン(ミシェル・ヨー)という女性が主人公で、彼女は家族経営のコインランドリーを運営しています。エヴリンは税務調査のために国税局に呼ばれ、家庭や仕事、夢の間で忙しく葛藤しています。彼女の夫ウェイモンド(キー・ホイ・クァン)や娘ジョーイ(ステファニー・スー)との関係も緊張しています。
ある日、国税局での会議中、エヴリンは異次元の自分と接触する能力に目覚めます。彼女は「バース・ジャンプ」と呼ばれる能力を使い、異なる宇宙の自分たちの意識にアクセスし、さまざまな人生を体験します。しかし、この能力には危険が伴い、エヴリンは精神的に圧倒されることになります。
彼女はジョブ・トゥパキ(ジョーイの別の宇宙のバージョン、役: ステファニー・スー)という強力な敵に直面し、彼女の悪影響を受けることになります。ジョブ・トゥパキはエヴリンの人生に混乱をもたらし、彼女にとっての「意味」を問い直すことになります。
エヴリンは、次第に自分の選択や人生の意義に疑問を持ち始め、さまざまな宇宙での自分を体験しながら、真の目的を見つけるための冒険に乗り出します。彼女は、自分の過去や家族との関係を再評価し、他の宇宙の自己とつながることで、自分自身を理解しようとします。
このパートでは、エヴリンの内面的な葛藤や、家族との関係、異次元の冒険が描かれ、物語全体の基盤が形成されます。
エヴィリンはアルファバースのゴンゴンに逆らい、ジョブ・トゥパキを倒す決意をします。そのために、彼女はジョブ・トゥパキのようになることを選び、何度も「バース・ジャンプ」を繰り返します。この行為は通常、命を落とす危険がありますが、エヴィリンは精神が分裂し、全宇宙の人生を同時に体験できる存在へと進化します。国税局での戦いの後、彼女は嘔吐し失神しますが、この瞬間にエヴィリンの精神が分裂し、ジョブ・トゥパキのようになってしまいました。
Part 2: Everywhere どこでも
エヴィリンの精神が分裂すると「Part 2: Everywhere」という字幕が表示され、彼女はバース・ジャンプを通じて体験した様々な人生(カンフー俳優、ソーセージの指を持つ人、料理人、歌手など)を同時に感じるようになります。次第に、エヴィリンはジョブ・トゥパキに影響され、人生に意味はないと考えるようになります。その結果、彼女の行動にも変化が現れます。
- カンフー俳優エヴィリン: ウェイモンドとの結婚生活に対して無意味だと感じます。
- ソーセージエヴィリン: 国税局員との関係を拒否します。
- 料理人エヴィリン: アライグマに操られている同僚の帽子を奪います。
特に重要なのは、国税局員からの電話を冷たくあしらい、同じことを繰り返す未来を嘲笑し、最終的にはバットでガラスを割るシーンです。この行動は、エヴィリンがジョブ・トゥパキのように絶望し始めていることを示しています。
エヴィリンの夫、ウェイモンド
そんなエヴィリンを救ったのはウェイモンドでした。彼は彼女に優しさを求め、切羽詰まった状況でこそ優しくあるべきだと涙ながらに訴えます。また、カンフー俳優エヴィリンにも楽観的でいることの重要性を説きます。
エヴィリンの二度目の覚醒
ウェイモンドの言葉に感化されたエヴィリンは、ゴンゴンの命令で銃弾が撃たれますが、それらは全てギョロ目シールに変わります。眉間にギョロ目シールが張り付いた瞬間、エヴィリンは二度目の覚醒を果たし、「優しさ」を手に入れます。その結果、彼女の戦い方は変わり、敵を幸せにする方法で戦うようになります。全宇宙における彼女の行動も優しさを持ったものに変化し、事態は穏やかに収束していきます。
ジョブ・トゥパキ、ジョーイとエヴィリン
エヴィリンはついにジョブ・トゥパキやジョーイと向き合います。彼女は「人生が無意味でも、一緒に時間を大切にしたい」と訴え、ジョーイも心を開くことができ、ジョブ・トゥパキをベーグルから救います。
Part 3: All at Once 同時に・いっぺんに存在する
ラストシーンでは、エヴィリンたち一家が幸せな状態で国税局へ向かいます。国税局員の話を聞きながら、エヴィリンの頭の中には異なる宇宙からの様々な声が響きます。彼女はまだ精神が分裂しているようですが、国税局員に呼びかけられると、笑顔でその言葉を聞き返します。このシーンは、他の世界線に囚われず、コインランドリー経営の人生に自信を持って向き合うエヴィリンの決意を示しています。
モチーフ解説: ベーグル
ベーグルは「Everything Bagel」と呼ばれるもので、多様な材料がまぶされています。ジョブ・トゥパキは、古い成績表や夢など、ありとあらゆるものをこのベーグルに入れ、結局、何も意味がないと考えるようになります。このベーグルは虚無主義や無意味さの象徴として扱われ、ブラックホールのような性質を持ち、吸い込まれると現実の重要性を失ってしまいます。
エヴィリンがガラスを割ったり、ウェイモンドを刺したりする行動は、ベーグルに吸い込まれ無気力になり、精神的危機に陥っている状態を示しています。最後に階段に現れるベーグルとの戦いは、無意味な現実を投げ捨てようとする娘と、優しさでそれを阻止しようとする母親の意見の対立を表しています。

エヴリンが額にギョロ目をつけることは、彼女が第三の目を開花させ、覚醒したことを象徴しています。ギョロ目は彼女の精神的な成長を示し、より深い洞察や認識を得たことを意味しています。この覚醒により、エヴリンは異なる宇宙や自分自身の様々な側面を理解し、真の自己を探求する能力を得ることになります。

まとめ
『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』は、単なるSFアクション映画ではなく、人生そのものを描いた深い作品です。ユーモア、哲学、家族愛、アクションが見事に融合し、まるで映画そのものがマルチバースのような体験となっています。興味がある方は、ぜひこの異次元の旅を体験してみてください!