私たちの世界は本当に存在するのか?―量子力学の不思議な世界へようこそ

はじめに

スマートフォン、テレビ、車、電車、飛行機――これらはすべて、物理学の知識から生み出されたものです。現在の生活に欠かせないもののほとんどすべてが、物理学によってもたらされました。

物理学者といえば、古くはガリレオ・ガリレイ、アイザック・ニュートンに始まり、ハイゼンベルク、シュレーディンガー、そしてアインシュタインと、常に人類の知能の境界線を押し広げてきた頭脳たちです。アメリカの研究によると、この世で最もIQの高い集団は物理学者だそうです。

そんな人類最強の頭脳集団が100年以上も格闘し、いまだに解決できていない問題があります。それは量子力学の解釈問題です。この問題は、世界は実際にどうなっているのか、本当に実在するのかという哲学的な問いにもつながります。本記事では、量子力学の不思議な世界と、「世界は本当に実在するのか」という問題について、分かりやすく解説していきます。


1. 私たちの見ている世界は本物か?

まず、次の問いを投げかけてみましょう。

私たちの住む世界は本当に存在するのでしょうか?

目の前に広がっている世界は本当にそこにあるのでしょうか。それとも、ただの仮想現実なのでしょうか。たとえば、あなたの目の前に白いボールがあるとしましょう。そのボールは果たして本当に存在すると言えるのでしょうか?

ある人はこう答えるかもしれません。

「ボールが存在するかどうかは、手で触れてみればわかる。触ることができたら存在し、そうでなければ存在しない。」

これはもっともな答えに思えます。しかし、こう質問されたらどうでしょうか。

「その感触は本当に存在するのでしょうか?」

我々の見ている世界が本当の世界ではないことを理解するために、「色」という概念を例にして考えてみましょう。


色とは何か? 色の例で考える「実在」

色というのは、いわば光のことです。光は電磁波の一種であり、電磁波は波の性質を持ちます。従って、光も波の性質を持つのです。

波にはさまざまな波長があり、波長の大小によって波の性質が変わります。色はこの波長の違いによって生じるものです。それぞれの色はそれぞれの波長を持つ光であり、たとえば赤色は長い波長の光、青色は短い波長の光です。

私たち人間には、光が目に飛び込んできたとき、それを色に変換する細胞があります。これらの細胞は光を赤、緑、青に変換します。この三色が混ざり合うことで、私たちは他の色も感じることができます。

たとえば、波長587ナノメートルの光が目に飛び込むと、私たちはそれを黄色だと感じます。また、波長787ナノメートルの光が飛び込むと、それを赤色だと感じるのです。

このように、色の正体が光の波長であることを踏まえて、我々の見ている世界が本当の世界なのかを考えてみると別の解釈ができるかもしれません。

色の正体と人間の認識

たとえば、黄色を例に考えてみます。

先ほどの説明の通り、波長587ナノメートルの光が目に入ってくると、私たちはそれを黄色だと感じます。しかし、一方で、緑の波長を持つ光と赤の波長を持つ光が同時に目に入ってくると、それらが混ざり合って私たちは黄色だと感じます。

つまり、私たちが感じている黄色は、もともと存在する黄色なのか、それとも混ざり合って作り出された黄色なのかを区別することができないのです。

さらに不思議なのは「白」という色です。白はすべての色が混ざり合った色です。従って、白は赤でもあり、青でもあり、同時に緑でもあります。もともとの白色というのは自然界に存在せず、私たち人間の目の中で混ざり合って作られた形でしか存在しない色なのです。

生物ごとに異なる世界

しかし、これらの話はあくまで人間の話です。たとえば、鳥は人間と違って四つの色に変換する細胞を持っています。そのため、人間と鳥では見ている世界の色が異なります。他にも、二つの色に変換する細胞を持つ動物は、人間とも鳥とも異なる世界を見ているでしょう。

このように、我々が感じる世界は決して世界そのものを映しているわけではないのです。


2. 量子力学の世界観とは?

これらの現象を科学的に解明する学問が量子力学です。量子力学とは、そもそも何を研究する学問なのでしょうか。

量子力学の基礎

量子力学は、非常に小さなスケール、すなわち原子や電子の動きを記述するための物理学の一分野です。この学問が成立する以前、私たちが理解していた物理の法則(ニュートン力学など)は、日常的なスケールでの現象を正確に記述するものでした。

しかし、原子や電子といった極小スケールの世界では、ニュートン力学はその役割を果たさなくなります。そこで登場したのが量子力学です。この学問は、以下のような特異な現象を説明するために発展しました。

スケールの旅:宇宙から電子まで

この宇宙に存在する物質はさまざまな大きさを持っています。物理学では大きさのことを「スケール」と言います。

たとえば、人間のスケールはおおよそ1メートルから2メートルです。ここからさらに大きなスケールを見ていきましょう。

大きなスケール

人間の次に大きなスケールといえば地球です。地球のスケールは1,000万メートル、つまり10の7乗です。さらに、太陽系は1兆メートル(10の12乗)、銀河系は10の20乗、そして宇宙全体は10の24乗という途方もないスケールです。

小さなスケール

一方で、人間より小さなスケールも存在します。人間の細胞のスケールは10の-5乗、細胞を構成する原子は10の-10乗、そして電子は10の-15乗という極小の世界です。

量子力学は、電子や原子といった極小のスケールの世界を研究する学問です。

量子力学の基本原理

量子力学には、我々の日常生活では想像もつかない不思議な原理があります。その中でも特に重要なのが、不確定性原理と確率的な存在の概念です。

  1. 不確定性原理
    原子や電子のスケールの世界では、物体の位置と速度を同時に確定することが原理的に不可能であるという法則があります。
    これは「ハイゼンベルクの不確定性原理」と呼ばれます。
    たとえば、歩いている人間の場所と速度は常に測ることができます。しかし、電子のような極小の物体では、位置と速度の両方を同時に確定することはできません。
  2. 確率的な存在
    さらに奇妙なのは、電子の位置や速度が確率的にしか予測できないという事実です。同じ条件で電子を打ち出しても、あるときはまっすぐ、あるときは斜め、またあるときは反対方向に飛んでいくのです。このような現象が、「実在とは何か」という問題を浮き彫りにします。

3. 世界は本当に実在するのか?

二重スリット実験

量子力学の代表的な実験として「二重スリット実験」があります。この実験では、電子や光子といった粒子がスリットを通過するとき、観測されるかどうかによって挙動が変化します。

  • 観測しない場合: 粒子は波のように振る舞い、干渉パターンを形成します。
  • 観測する場合: 粒子は粒のように振る舞い、特定の位置に衝突します。

この結果は、観測行為そのものが粒子の性質を決定づけることを示唆しています。

観測者の役割

量子力学が示す結論の一つに、「観測者がいなければ、世界は確定しない」というものがあります。つまり、物質の存在や性質は観測者の存在によって初めて確定するのです。

この考え方は、私たちの直感に大きく反します。日常的な感覚では、物質は観測者に関係なく存在しているように思えます。しかし、量子力学の世界ではそうではありません。

観測が物体を決定する

量子力学では、観測を行うまで物体の状態は確定しません。この概念を象徴するのが「シュレーディンガーの猫」の思考実験です。箱の中の猫は観測されるまで「生きている」と「死んでいる」の両方の状態にあるとされます。


実在の否定?

論理的に考えると、物体が実在するならば、観測とは無関係にその位置や速度を持つはずです。しかし、量子力学はこれを否定しました。このことは、「物体の実在」という概念そのものを揺るがします。


4. 未解決問題と未来への展望

量子力学の解釈問題は、現在も物理学者たちを悩ませています。アインシュタインは、「神はサイコロを振らない」と述べ、量子力学の不完全さを指摘しました。一方で、実験結果は量子力学の正しさを支持しています。

今後、この問題を解決する鍵は、さらに深い次元での理解、もしくは新しい理論の構築にあるのかもしれません。


結論

量子力学が示す世界は、私たちの日常的な感覚を超越しています。「私たちの世界は本当に存在するのか?」という問いに、科学はまだ明確な答えを出していません。しかし、これこそが科学の魅力であり、さらなる探求への扉を開くのです。

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