多世界解釈(Many-Worlds Interpretation, MWI)と多次元宇宙(Multidimensional Universe)は、どちらも「現実は私たちが認識しているより広がりがある」という考え方を含んでいますが、それぞれ異なる概念です。
1. 多世界解釈(MWI)
量子力学の解釈のひとつであり、ヒュー・エヴェレット3世が1957年に提唱しました。
- 主な内容: 量子の状態は観測されるたびに「一つに決まる」のではなく、すべての可能性が現実となり、それぞれの可能性ごとに宇宙が分岐していく。
- 例: コインを投げて表が出る世界と裏が出る世界が同時に存在し、観測者もそれぞれの世界に分岐する。
- 特徴: 各世界は重なり合わず、お互いに干渉することはない。
2. 多次元宇宙(Multidimensional Universe)
物理学(特に超弦理論やブレーンワールド理論)における宇宙の構造に関する仮説。
- 主な内容: 私たちが認識する3次元+時間(4次元時空)以外にも、空間的な次元が存在する可能性がある。
- 例: 10次元以上の空間が存在し、私たちの宇宙はその一部にすぎない。ブレーンワールド理論では、異なる次元に他の宇宙がある可能性が示唆される。
- 特徴: 物理的な高次元空間の概念であり、量子の分岐とは異なる。
違いのまとめ
多世界解釈(MWI) | 多次元宇宙 | |
---|---|---|
起源 | 量子力学の解釈 | 物理学・宇宙論 |
主な考え方 | 量子の選択肢ごとに宇宙が分岐 | 空間的に高次元が存在 |
世界の関係 | 分岐した世界は互いに干渉しない | 高次元空間に別の宇宙が存在しうる |
代表的理論 | エヴェレットの多世界解釈 | 超弦理論、ブレーンワールド |
では、どちらが「パラレルワールド」なのか?
- SF的な「無限の可能性を持つ並行世界」 → 多世界解釈
- 異なる次元に存在する宇宙(高次元空間) → 多次元宇宙
どちらも「私たちが知る世界の外側に別の現実がある」という点では似ていますが、成り立ちと理論的背景が違うと解釈すればいいでしょう。
ブレーンワールド理論とは
ブレーンワールド理論(Brane World Theory)とは、超弦理論やM理論から派生した仮説で、私たちの宇宙は高次元空間に浮かぶ「膜(ブレーン)」のような存在であるという考え方です。
🔹 基本的な考え方
- 私たちの宇宙(4次元時空)は、高次元空間(5次元以上)に浮かぶ「ブレーン(膜)」である。
- 物質や光はこのブレーン上に縛られているが、重力は高次元空間にも広がる。
- 高次元空間(バルク)には、私たちのブレーンとは異なる別のブレーン(=別の宇宙)が存在する可能性がある。
🔹 代表的なモデル
① ランダル=サンドラム模型(RS模型)
- 1999年にリサ・ランドールとラマン・サンドラムが提唱。
- 5次元空間に2つのブレーン(私たちの宇宙を含む)が存在すると考える。
- 重力だけがバルク(5次元空間)を自由に移動し、他の力はブレーン内に閉じ込められている。
- 重力が高次元へ逃げるため、重力が他の力に比べて極端に弱くなる理由を説明できる(弱い重力問題の解決)。
② ホログラフィック宇宙論
- 高次元空間の情報が、私たちの4次元時空に投影された結果として宇宙が成立しているという考え方。
- ブラックホールの情報パラドックスを解決する可能性がある。
🔹 ブレーンワールド理論の示唆
- パラレルワールドの可能性
- 別のブレーンが高次元空間に存在すれば、別の宇宙(パラレルワールド)が実在する可能性がある。
- ただし、量子力学の「多世界解釈」とは異なり、物理的に分離された宇宙のことを指す。
- 重力の性質の再解釈
- 私たちのブレーンにある物体の重力は、高次元空間にも漏れ出している可能性がある。
- これが暗黒物質や宇宙膨張の説明につながるかもしれない。
- 高次元空間へのアクセス
- もしブレーン同士が接触すれば、異なる宇宙の影響を受ける可能性がある。
- ビッグバンも、別のブレーンとの衝突によって生じたとする仮説もある(エキピロティック宇宙論)。
🔹 まとめ
ブレーンワールド理論 | |
---|---|
次元構造 | 私たちの宇宙は高次元空間に浮かぶ「膜(ブレーン)」 |
宇宙の関係性 | 他のブレーン(別の宇宙)が存在する可能性 |
重力の扱い | 重力は高次元にも広がる(弱い重力の説明) |
パラレルワールドとの関係 | 物理的に分離された「別の宇宙」があるかも |
ビッグバンとの関係 | ブレーン同士の衝突がビッグバンを生んだ可能性 |
ブレーンワールド理論は、多次元宇宙を説明する有力な仮説の一つであり、量子力学的な「多世界解釈」とは異なるアプローチでパラレルワールドを考えています。もしこの理論が証明されれば、私たちの宇宙の成り立ちや重力の正体、さらには別の宇宙の存在についての理解が大きく進む可能性があります。